この文章のトピックスは以下です。
・百貨店売上、1991年は9.7兆円、2022年は5.4兆円、この間-4.3兆円
・百貨店売り上げを分類で見ると「雑貨」が110.0%と伸びているがそれ以外は減っている
・10都市以外の百貨店の店舗数は2006年と2019年を比べると約2/3に減少
・10都市以外の百貨店の売上高は2008年と2013年を比べると約半額
・百貨店の売り上げピークは1991年で以降下がり続けている
・百貨店以外のドラッグストアやスーパーは伸び続けている
・どうやってファンを獲得するのか
百貨店売上はここ約30年で-4.3兆円
出典:百貨店売上高(日本百貨店協会)
上記は日本百貨店協会にあるデータ、百貨店売上高・推移です。
1991年は9.7兆円、2022年は5.4兆円、この間-4.3兆円(55.7%)です。
売上高が32年間で、半額強に減っています。
2020年のコロナウィルス禍は特殊要因ですが、これを除いたとしても百貨店は斜陽産業です。
出典:百貨店売上高(日本百貨店協会)
上記は商品別の売上高推移、ここ16年分の情報です。
16年間で伸びているのは「雑貨」のみで、前後比は110.0%(1兆円が1.1兆円)。
「衣料品」と「家庭用品」は約半分、「食料品」も約3/4に減っています。
10都市以外の百貨店の店舗数は約2/3、売上は約半額
地方県庁所在地やメイン駅のデパート閉店のニュースは、聞き慣れた時代になりました。
出典:第1回百貨店研究会 事務局説明資料(経済産業省)
上記は百貨店店舗数、10都市とそれ以外の推移です。
10都市とは札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡です。
10都市の店舗数、2006年は95店舗、2019年は81店舗で前後比-14店舗、増減率は85.3%。
10都市以外の店舗数、2006年は182店舗、2019年は127店舗で前後比-55店舗、増減率は69.8%。
店舗減少数は、10都市以外が10都市の約2倍です。
出典:百貨店売上高(日本百貨店協会)
上記は10都市とそれ以外の百貨店売上高推移です。
10都市の売上高、2006年は4.7兆円、2019年は4.1兆円で前後比-0.6兆円、増減率は87.2%。
10都市以外の売上高、2006年は2.6兆円、2019年は1.3兆円で前後比-1.3、増減率は50.0%。
10都市以外は店舗数減少幅より、店舗数売り上げの減少が大きくなっています。
対し、10都市の百貨店の売り上げはここ16年で約9割弱と、約1割強の減少です。
10都市は特にインバウンド需要が影響していそうですが、この情報から経営方針を決めるなら、地方撤退のシナリオは普通の経営判断です。
百貨店売り上げのみ減少、ドラッグストアやスーパーは伸長
このブロックは百貨店以外の、スーパーやコンビニとの比較です。
出典:商業動態統計(経済産業省)
上記は、百貨店・スーパーの起点である1980年を100としてその後の売り上げ増減率です。
百貨店の売上高、1980年を100としたとき、2022年は84.7%。
スーパーの売上高、1980年を100としたとき、2022年は266.6%。
スーパーは43年間、増加し続けており、百貨店は1992年の183.5%をピークに減少し続けています。
スーパーで購入する商品の大半が飲食物だとして、人口が増加し続けていれば売上増加が見込めますが、日本の人口のピークは2008年で以降減少期に入っています。
それでもスーパーの売上が伸張しているのは、世界的と比べると日本は取り残されましたが、特に最近は物価上昇が影響していると言えそうです。
出典:商業動態統計(経済産業省)
上記は、百貨店、スーパー以外にも、コンビニ、家電量販店、ドラッグストア、ホームセンターの2014年からの売り上げ増減率です。
2014年からのデータが揃っていたので、起点は2014年というだけで、特に意味はありません。
この6業種を見ても、百貨店は一人負けの-20.3%。
伸び率1位はドラッグストアの+56.1%、2位はスーパーの+31.4%、3位はコンビニの+29.4%です。
満足度最大化を目指してファンになってもらう
いまEC業界(ネット通販業界)では、ランキングに代表される人気商品(集合知)から、インフルエンサーなど個人のオススメから商品購入する人が若い人を中心に増えています。
SNSで自分のお気に入りの人の「この商品、使ってみて良かった」投稿を見て、同じ物を購入する。
SNSのお気に入りは自分の嗜好にあった人なので、身近な友達のような感もあり、すんなり受け入れやすい。
また、SNS側からオススメされる投稿は類似の感覚や興味がある人なので、お気に入りインフルエンサーがまるで自分が選んだかのように錯覚する。
商品購入する時、ネット普及以前は身近な人やテレビやマスコミのマスメディアが主流でしたが、いまは見ず知らずの自分が選んだ(と錯覚している可能性がある)個人が追加されました。
この流れになった別の視点として、商品のコモデディ化も挙げられます。
典型的なのは家電で、最新機種をメーカー別に比べてみても、各メーカーの特筆点・優位性はほとんど見つけられない。
誤差と言うほど小さくはありませんが、それくらい差別化が難しく技術が進んだ1つの到達点です。
商品以外、自分個人の個性を見たときも、いまはみんなと同じではなく自分らしさにニーズは振れています。
第二次世界大戦後の日本は、普通に働いていればみんな一緒に物質的に豊かになり、家電の三種の神器獲得のような見える目標があり、そこに大半の人が向かっていきました。
昭和時代、よそ行きの服を着て家族そろって百貨店に出かけるのは、一般家庭にとっては1つのイベントだったと聞きます。
百貨店は昭和史では、大量生産・大量消費の象徴とも取れますが、それが令和のいまは食品やアパレルのロス削減が世界的な潮流になっており、時代の変化を感じます。
令和時代に子育てしている僕のわずかな身の回り観測でしかありませんが、子どもがデパート訪問を喜ぶ話は聞きません。
いま子育て中の親達は、デパートではなくショッピングモールへ出かける方が多い。
子ども達も馴染みの大型モールで、自分が行きたいお店があり、フードコートで昼食を取って半日過ごす。
デパートの高級感より、日常の延長線にあるショッピングモールが心地よいのかもしれません。
デパートにとっては、EC台頭も競合に当たります。
EC売り上げは年々増えており、ネットは無限の品ぞろえで、Amazon会員になれば離島などを除いて送料無料になる。
対し、デパート業界のECサイトを眺めていて感じるのは、良い商品を基本定価で販売している。
オッサン臭いものを嫌うのが若者の常として、デパート業界のECサイトでは、全体の雰囲気や商品ラインナップなど彼らには刺さりにくいと感じます。
デパート業界だけではありませんが人材獲得は大半の業界の課題ですが、若者がデパートに就職したいか問題もあります。
デパート業界の就業環境は土日休みではなく、働いている人は高齢化している。
古くからの体質をどの程度、払しょくできているか、新規提案しても上司が受け止めてもらえないような業界であれば、人は離れていきます。
この先デパートの強みをどこに持っていくのか。
資産家を狙って、外商の売上を強化できれば楽な道筋ですが、お金持ちを取り込むことは容易ではなく。
マジョリティの一般層をターゲットとするなら、いままでと方針は変わらないと思いますが、さらに進化した提案力・パーソナライズだと僕は考えています。
もともと、百貨店の強みである高品質(のれん)を武器として、ファン層を拡充していく。
日頃、磨いた対面販売スキルを最大限生かし、来ていただいたお客様に「あそこで買って良かったな」と思ってもらえる、商品やサービスを提供する。
サービスがその肝であり、思い出に残るような経験をお客様に提供する。
服であれば、売上ではなく本当にその人に寄り添った提案をする。
時には、自分のブランドではない他社ブランドをお勧めするくらいの覚悟もその1つです。
子連れのお客様には、嫌らしくならない程度の子どもが喜ぶ小さなプレゼントをする。
個人情報に厳しい時代、どこまでお客様のパーソナル情報を取得できるかは難しいですが、個に寄り添う姿勢を重視する。
最終的には接客はAI(ロボット)が担っていくと僕は考えていますが、それまでの過渡期、AIコンシェルジュの最先端を行くのも時代にマッチしています。
AIを導入し、AIの提案を踏まえつつ、人間が一部をアレンジしたり最後の後押しをする。
AIはあくまで1つの手段でもありますが、ゴールはお客様に「良い買い物ができた」の満足経験最大化で、ファンになってもらう。
ファン作りの道のりは簡単ではなく、場合によっては長期戦もあり得ます。
ただ、デパート業界は、総じて長期戦を得意とする人が多い気もします。
僕は子どもができてから、デパートに行く機会が増えました。
その動機を思い返してみると、実物を観たり試着でき、間違いのない商品ラインナップだと思っているから。
デパートの安心感は、大きな強みです。
いま、わが家の子どもにデパートの好き嫌い判定してもらうなら、どちらでもない判定をしそうです。
デパートに行って、子どもの服などを一緒に買ったあと、おもちゃ売り場に行ったりご飯を食べたりする。
悪くない場所だがそれほど強く印象に残ることもなく、いろいろなことができる場所あたりが妥当かもしれません。
当たり前ですが、デパートはリアルに商品が見られる総合販売場所です。
デパートに来られるお客様は、自分の意思で目的があって訪れている。
地方商店街の没落に比べれば、まだチャレンジできる環境です。
その状況をも生かして、お客様の記憶にプラスの印象を残すのは、デパートパーソンの矜持かもしれません。
さいごに
僕は若いころ、自分の好きなファッションブランドがあり、あるデパートに半年に1回は通っていました。
固定店舗に通った理由は、1人の店員さんと馴染みになったためです。
僕は店舗で服を選ぶとき、店員さんに話しかけられるのが苦手ですが、唯一その人とはお互い名前を呼びあう間柄になりました。
その人の押しの強くない接客が僕には心地よく、長くお付き合していました。
接客の極意は相手によって変わるので存在しませんが、何かを買う時、真っ先に販売する個人の顔が思い浮かぶような関係性が築ければ、ファン獲得できたと言えます。