社会人大学院生はここ20年で約2.5倍、社会に出てからの学びは20歳のころとは違う

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統計データ

この文章のトピックスは以下です。
・社会人大学院生は増えており、全院生に占める社会人割合は2021年は約1/4
・修士課程の社会人大学院生は減っている
・博士課程の社会人大学院生は増えている
・博士課程の専攻でふえているのは「保険」が大半
・リカレント教育を日本とOECDでくらべると日本は柔軟性や効果が圧倒的に低い

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社会人の大学院生数は増加傾向で約1/4の大学院生が社会人

社会人 大学院生 人数と割合
出典:科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2022、調査資料-318、2022年8月(文部科学省)

上記は社会人・大学院生数と、全院生に占める社会人割合です。
数も割合も全体の方向性では増加を続けており、2021年は62,040人です。
これは2000年24,897人にくらべ2.49倍です。
全院生数に占める社会人割合も増え、2000年は12.1%、2021年は24.1%と約1/4が社会人になっています。

社会人大学院入学者数 (修士課程)と全体比割合
出典:科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2022、調査資料-318、2022年8月(文部科学省)

上記は社会人の大学院入学者数・修士課程の人数と、全入学者に占める割合です。
修士課程へ入学する社会人は減っています。
大学院・修士課程へ入学する全院生数に占める割合も、わずかですが減っています。

社会人大学院入学者数 (博士課程)と全体比割合
出典:科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2022、調査資料-318、2022年8月(文部科学省)

上記は社会人の大学院入学者数・博士課程の人数と、全入学者に占める割合です。
博士課程は修士課程と違い、入学者数も全体に占める割合も増えています。
入学者数は2003年3,952人、2021年は6,100人で前後比154.4%。
博士課程入学者数に占める社会人割合は2003年21.7%、2021年は41.7%で前後比192.4%と約2倍になっています。

社会人学生・博士課程では「保険」専攻が圧倒的増加

社会人博士課程 専攻別 在籍者数
出典:科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2022、調査資料-318、2022年8月(文部科学省)

上記は社会人博士課程、専攻別の在籍者数推移です。
全体で増えていますが、増えているのは黄緑色の「保険」専攻が圧倒的です。

専攻別 社会人博士課程 在籍割合推移
出典:科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2022、調査資料-318、2022年8月(文部科学省)

社会人博士課程、各専攻の在籍割合推移が上記です。
黄緑色の「保険」専攻のみ単位が大きいので右軸にしています。
「保険」専攻以外は、よくて横ばい、大半は減少しています。
対し「保険のみ」大きく増加しており、2000年37.3%、2021年58.5%です。

日本はOECD平均に比べリカレント教育の見返りが低い

リカレント教育の評価 日本とOECD平均
出典:リカレント教育の現状(内閣府)

上記はリカレント教育の評価について、日本とOECD平均の情報です。
リカレント教育とは、働く個人が任意のタイミングで能動的に学ぶことを指します。
学びの対象は、仕事関係に限らず生きていく上で役立つ知識・スキルの習得も当たります。
それぞれの項目の意味は以下です。

・緊急性の低さ
教育の改善に取り組むことの緊急性の低さ(高齢化・構造変化・国際化の状況等)
・学習への参画
個人や企業がどの程度、教育に参加・参画しているか(個人・企業の訓練実施率等)
・包括性
教育の機会がどの程度包括的か(参加者の性別・年齢・雇用形態の多様性)
・柔軟性
教育機会を柔軟に得ることができるか(時間・距離の制約、遠隔教育の整備等)
・ニーズ
教育が労働市場のニーズに合致しているか(訓練の有用性、将来のニーズに対応した訓練の実施等)
・効果
教育の効果がどれだけあるか(賃金リターン等)

レーダーチャートで、日本とOECD平均で近い数字になっているのは、「緊急性の低さ」「学習への参画」「包括性」の3つです。
大きな差をつけられている残りの3つ「柔軟性」「ニーズ」「効果」で、日本で仕事をしていると納得の項目です。
社会人が大学院等で学び直すとして、時間的な制約があったり、学んでも市場ニーズにあっているか不明。
明らかに仕事に直結する内容であれば人事部や上長が納得しそうですが、現実では目の前のタスクを片付けるプレッシャーが強い。
中小企業であればなお、そうした選択を受け入れてもらえる空気は低そうです。

(物語)自分で自分の人生のハンドルを握る

29歳の哲也は、プライム市場に属する貿易会社で働いていました。
彼の会社は商社で、世界中の取引先と交渉し商品の輸出入を管理していました。
所属企業は利益がしっかり出ており、同年代の友人に比べて給与は恵まれており、仕事自体もおもしろみを感じていました。
しかし、彼の心の奥底では学生時代に夢中になった数学への情熱がくすぶっていました。

ある日、哲也は海外の取引先の担当者と会食する機会がありました。
40歳代と思われるその取引先担当者は、社会人になってから2度、大学で学び直した過去を持っていました。
そこには、取引先担当者の国は日本に比べ学び直ししやすい社会制度・風潮があることが予想でき、「最近寒くなりましたね」くらいの普通の事として話していました。
この話を聞いた哲也は、その時は「そうなんですか、うらやましいです。どんな分野について学び直しされたのですか」などの返しをしていました。
しかし、心の中では彼の環境がうらやましく、自分もできないのかと強い思いにかられました。

会食が終わって自宅への帰り道。
再び学生に戻るシナリオが、現実的か頭の中で検証してみる。

彼は独身で身軽、これまで仕事が忙しすぎてお金を使う暇もなく、彼の預金銀行口座の数字は増える一方でした。
預金金額をからは、2年程度は、学生になっても生活には困らない。
キャリアは中断されるが、いまのキャリアの先を自分が望んでいるかと言われて、自信をもってYesと言えない。

学生になるなら、その後また社会人として働くとき業種変更も視野に入りますが、元の業種に戻る選択はこれまで積み上げてきた実績からは無理ではなさそう。
これまで社内では常に数字として好成績を残していたし、苦手な人もいるがそつなく対応し敵は少ないはず。

学ぶとして、社会人を続けつつ通信教育や終業後に就学するシナリオも思いつく。
あるいは、いまの会社を休職する選択肢もあり得るのかもしれない。
とはいえ、どうせ学ぶなら学生時代の軽いノリではなく、不退転の意思で集中して学びなおしたい。
数学の特性としてどこででも考えることができますが、文字通り一日中勉強する時間を自分は望んでいる。
何日も考えましたが、哲也が出した回答は仕事を辞めて大学院に入学する決断でした。
「人生は一度きり。現実的なことも大切だが自分の本当にやりたいことをやらないと、死ぬとき後悔するかもしれない。」
周囲の人々は、学生になる決断を肯定的に捉える人が大半でしたが、もったいないと言う人もいました。

大学院での生活は、20歳前後の時とは精神的に異なっていました。
当時もそれなりに勉強していましたが、いまの集中力はその何倍にもなります。
一度も留年経験はない哲也ですが、留年するような成績はありえず、決まった期間でしっかり結果を出す覚悟を持っています。
そして、何があってもゴールにたどり着くのは、哲也にとってもともと人より強いと思っていましたが、貿易の仕事でより強化された資質です。

他にも外国との取引では日本人同士の暗黙の空気は通用せず、苦い思いをした経験もたくさんあり、それゆえ詰めをしっかりする習慣が身につきました。
勉強においてそれは良い方向に影響しており、広い視点で見て、スピード感を持って取捨選択でき、数値成果を意識して着実に歩み続ける。
大学院生の生活は、充実した楽しい時間でした。

この先、どうなるか分からない。
社会人学生がマイノリティの日本では、学生生活が終わったときの再就職は大変なのかもしれない。
それでも、これが自分の決めた道で、自分一人くらいどうにでもなるという開き直りの覚悟がある。
自分の人生のハンドルを再び自分で握りなおした、そんな感触が哲也にはありました。

さいごに

僕は近年、わが家の子どものお付き合いで「歴史検定」を受験して、合格しました。
背景として、わが家の子どもが、図書館でいろいろな本を読むようになり、だんだん歴史にはまっていきました。
それなら1つの見える成果、本人の自信につながる可能性を考えたとき、歴史検定受験を思いつき子どもに提案してみました。
子どもは「受験してみる」というので、僕は子どもの付き添いとして親子受験し、二人とも合格しました。
ちなみに、子どもの柔軟な脳に僕は勝てず、子どもの方が僕の点数より上でした。

僕は子どもの頃、歴史が好きで、歴史検定を受けるにあたりひととおり勉強をしました。
やってみて思ったのは、大人の学びは子ども時代と違い、たとえば人物の心象などがリアルに感じられ、記憶詰込みと違って楽しく学びなおしができる。
「こんな事、考えていたんだ」とか「この人とこの人は、もしかすると敵対関係ではなくライバルだったのでは」など、楽しく書籍を読み直せました。

企業でキャリアアップするなら、「TOEIC 750点以上」のような強制的なものもあります。
そうではなく大人になってからの娯楽に近い学びは、楽しい趣味だと思えます。