この文章のトピックスは以下です。
・公教育で複数担任制が増えている
・複数担任制と単一担任制のアンケート結果では複数担任制が良いと答える子どもも親も多い
・複数担任制のメリットは1対1ではなくn対1
・複数担任制のデメリットはコスト増など
・複数の視点があると安全性は増す
複数担任制が拡大している
複数担任制が少しずつ拡大しています。
呼び名は他にもあるようで、「チーム担任制」「学年担任制」「全員担任制」「共同担任制」などがあります。
小学校で学級担任を1人に固定せず、複数で受け持つ「チーム担任制」が各地に広がっている。子どもや保護者の対応を抱え込んで休職や退職に至る「担任不在」を防ぎ、教員不足の歯止めの一助になることも期待される。東京都杉並区立の小学校では昨年度1校だったが、本年度は4校が導入。
岡山県津山市の全27小学校で今春、1人の教員がクラスを受け持つ「学級担任制」を改め、複数の教員が学年全体を担当する「学年担任制」が導入された。
出典:全小学校「学年担任制」導入 複数教員が学年全体を担当 岡山・津山(朝日新聞)
いじめや多忙な教員の負担を軽くすることなどを目的に、小中学校で担任制のあり方を見直す動きが出ている。茨城県では、取手市教育委員会が、市立中学で3年の女子生徒がいじめで自殺した問題の再発防止策として、学級担任を固定しない「全員担任制」を新年度に導入予定。
出典:中学校で全員担任制、小学校で教科担任制 茨城県内の自治体で新年度から いじめ防止と教員の負担軽減のため(朝日新聞)
1クラスの担任は1人のシステムが長く標準的だった公教育ですが、時代にそぐわない点も出てきています。
複数担任制に変えるならメリットやデメリットがありますが、両者を天秤にかけた時、メリットが上回っているため広がっていると言えます。
万能なシステムは存在せず、複数担任制もすべてのシチュエーションでメリットが上回るわけではありませんが、次節のアンケート結果を見ると、生徒も保護者も単一担任制より良いと答えています。
ちなみに、複数担任制ではなく、教科担任制というシステムあります。
児童の学力向上と教諭の負担軽減を目指し、東京都港区は4月、全区立小学校(19校)に教科担任制を導入する。
複数担任制は、拘束時間の長い教員の働き方改革も導入要因の1つです。
教科担任制で高い専門性を持った人からの授業であれば、生徒側に効果的だと感じます。
自己調整学習を支援するとともに、 生徒主体の学校づくりを実現するために。 生徒が担任を選ぶユニークな メンター制を採用しています。
出典:メンター制(品川翔英中学・高等学校)
上記は授業システムではありませんが、おもしろい取り組みだったので取り上げました。
先生がメンターとなり、そのメンターとなる先生は生徒が選ぶシステム。
これは勉強についていけないなどのとっかかりを相談できる窓口にもなりますが、もっとフワッとした相談ができる。
SNSを含む友達との付き合い方や進路など、世界が狭い生徒が一人で抱え込むのではなく、大人の視点も加味し視野を広げるには効果が高い施策だと感じます。
複数担任学級が単一担任学級より良いと答える回答が多い
出典:教員の職務実態からする「複数担任学級」の意義と効果(文部科学省)
上記は子ども向けのアンケートで、先生の話がよく分かるかについて、単一担任学級か複数担任学級の結果です。
「そう思う」と「少しそう思う」の同意回答は、複数担任学級は97.9%、単一担任学級は66.2%、その差は31.7%と大きく複数担任学級が上回っています。
出典:教員の職務実態からする「複数担任学級」の意義と効果(文部科学省)
上記は保護者のアンケートで、子どもが授業内容を理解できるかについてです。
「そう思う」と「少しそう思う」の同意回答は、複数担任学級は93.0%、単一担任学級は87.6%、その差は5.4%と子どもの認識と大きな差が生まれています。
複数担任学級について理解できていると考える子どもは97.9%、大人は93.0%、その差4.9%。
単一担任学級について理解できていると考える子どもは66.2%、大人は87.6%、その差-21.4%。
単一担任学級で、大人と子どもの認識の差が大きく、大人は理解できていると思っているが、子どもは理解できていないと考える子どもが2割強います。
出典:教員の職務実態からする「複数担任学級」の意義と効果(文部科学省)
上記は子ども向けのアンケートで、勉強のことで先生に質問・相談するかです。
「そう思う」と「少しそう思う」の同意回答は、複数担任学級は47.3%、単一担任学級は32.1%、その差は15.2%、複数担任学級が質問・相談しやすい結果です。
出典:教員の職務実態からする「複数担任学級」の意義と効果(文部科学省)
上記は子ども向けのアンケートで、先生と遊んだりお話ししたりするかです。
「そう思う」と「少しそう思う」の同意回答は、複数担任学級は72.0%、単一担任学級は57.4%、その差は14.6%。
人間同士の相性を考えれば、相手が複数であれば話しやすい相手がいる可能性が高くなります。
出典:教員の職務実態からする「複数担任学級」の意義と効果(文部科学省)
上記は子ども向けのアンケートで、学校生活が楽しいと思うかです。
「そう思う」と「少しそう思う」の同意回答は、複数担任学級は95.7%、単一担任学級は90.8%、その差は4.9%で、これまでの回答に比べ複数担任学級と単一担任で大きな差がない回答です。
出典:教員の職務実態からする「複数担任学級」の意義と効果(文部科学省)
上記は保護者のアンケートで、子どもが毎日学校で担任の先生と楽しく過ごしていると思うかの解答です。
「そう思う」と「少しそう思う」の同意回答は、複数担任学級は93.0%、単一担任学級は85.0%、その差は8.0%です。
1つ上の子どもの「学校生活が楽しいと思うか」回答結果と、それほど離れていません。
出典:教員の職務実態からする「複数担任学級」の意義と効果(文部科学省)
上記は保護者のアンケートで、担任の先生から、学習や活動についての情報を十分に提供されてると思いうか。
「そう思う」と「少しそう思う」の同意回答は、複数担任学級は87.1%、単一担任学級は86.3%、ほぼ同値です。
情報提供に関しては他の項目と違い、複数担任学級と単一担任学級で保護者の認識は同じといえます。
出典:教員の職務実態からする「複数担任学級」の意義と効果(文部科学省)
上記は子ども向けのアンケートで、勉強の時先生は複数が良いと思いますかの回答です。
「そう思う」と「少しそう思う」の同意回答は、複数担任学級は76.3%、単一担任学級は39.0%、その差は37.3%。
注意点として、単一担任学級しか知らない子どもがこの回答者に入っているなら、複数担任学級が良いか判別できない可能性が思いつきます。
出典:教員の職務実態からする「複数担任学級」の意義と効果(文部科学省)
上記は保護者のアンケートで、授業の時、先生が複数が良いと思いますかの回答です。
「そう思う」と「少しそう思う」の同意回答は、複数担任学級は95.3%、単一担任学級は62.6%、その差は32.7%。
子ども回答では複数と単数の回答差は37.3%でそれよりは低い値ですが、保護者回答でも大きな差が出ています。
安全のために多数の視点が入る
複数担任制のメリットを上げます。
・複数の目線が入ることによるフラット視点、安全性
・教師と生徒の相性が悪いとき単一担任制は子ども側に逃げ場がない
・システムにもよるが子どもが先生を選べる
・教師の業務負担が減る、専門性が高まることもある
・教師間で学びが生まれる
・教師の休みがとりやすい、産休なども含む
複数担任制のデメリットを上げます。
・人的コスト、給与を含む
・情報連携コストが発生する
・責任の所在があいまいになる
・意思決定の遅さ
・複数担任同士の相性や教育観があわないと統率がとれず子どもに悪影響
・人気の先生と不人気の先生で偏りが出る
・保護者が相談先を迷う可能性
上記は学校内に関わらず、一般論としてもあてはまる内容です。
時代はオープン、フラット、安全を意識するようになりました。
障害やトラブルを未然に防ぐために他社事例も参考にして、自社の方針を事前調整して仕組化しておくのは当たり前。
人と人の相性のような判断しにくいものをなるべく排除し、誰がやっても対応できる。
根性論や感情論を持ち出すようなら、会社内でも法律としてもペナルティ対象になる時代です。
一人の人間の不完全性(リスク)を考えると、複数担任制はいまの時代の標準に近づけていると感じます。
いじめの兆候を見つけるとすぐに学校側が動くなど、学校内も良い方向へ進んでいます。
その先端事例の1つとして、複数担任制は拡大しています。
(物語)違う視点
伊織が小学6年生になった始業式の日、朝、起きて部屋の窓から外を眺めると曇り空でした。
新学期を迎えるにあたり、彼の心は今日の天気のように一抹の不安がありました。
昨年、受け持ってもらった担任の先生が苦手で、昨年度はその先生とはできるだけかかわりを持たないよう過ごしていた伊織。
その先生は50歳を過ぎているベテランの先生でした。
リーダーシップが何か伊織にはうまく説明できませんが、その先生は俺が生徒全員を引っ張っていくというスタイル。
違う面からみると自分の言っていることが正しく、全員自分の方針に染めるようなやり方が自分には合わない。
同じクラスの友達と話していても類似の感想を聞くので、自分だけがそう感じているだけではなさそうでした。
今年の担任の先生はだれになるか。
できれば新任の先生でも良いので、昨年度と違う先生になってほしい。
伊織は学校に到着して、自然にいつもより急ぎ足でクラス分け発表の紙を見に行きました。
まずは自分の名前があるクラスを見つけ、すぐに上部に書かれている担任の先生の名前に視点をずらします。
そこには3人の先生、佐藤先生、杉田先生、伊集院先生の名前がありました。
伊織が通う小学校では、今年度から実験的に複数担任制を導入することとなり、そのため担任の先生が1人ではない。
システムとしては6年生全2クラスを4人の先生が担当。
2人は各クラスの正担任、残りの1人(伊集院先生)は学年全体と各クラスの副担任でした。
伊織にとって、自分のクラスを受け持つ3人の先生は、これまでかかわりはほとんどなく初対面に近い存在でした。
それでも昨年受け持ってもらった担任の先生ではなかったことがうれしく、クラス発表用紙の前で心の中で良かったと安堵していました。
新たな教室に入り、先生と生徒の最初の顔合わせの時間。
教室には佐藤先生と杉田先生が入ってきて、ざわざわしていた教室が静まり返ります。
佐藤先生は30歳代前半くらいの男性、杉田先生は20歳代後半と思われる女性。
佐藤先生から、まず今年度から複数担任制になったことの説明を受けました。
複数担任制とは、佐藤先生・杉田先生の両方が正担任となり、二人は正担任と副担任の役割ではなく同列。
いまここにいない伊集院先生は、6年生の2クラス両方をみつつ、各クラスの副担任のような役割です。
授業は科目ごとに、たとえば音楽は杉田先生体育は佐藤先生などになる。
どちらかの先生が休みの時は、残った先生がそのカバーしていく。
今年度から、この学校でも実験的に複数担任制を取り入れることになり今年は5年と6年が対象。
皆さんからの質問や相談は3人のどの先生でも良いので、気軽に相談してください。
このような説明を受けて、新年度がスタートしました。
複数担任制は先生も生徒も初めてて、最初は戸惑う事もある。
算数は佐藤先生が受け持ってくれているが、本当に算数の質問を杉田先生にしても良いのか。
朝の会や給食など、先生はどの席で食べるのか。
保護者は先生宛に何か連絡するとき、どちらの先生宛と書くものなのか。
やってみると何も問題はなく、全員がすぐに新たな複数担任制システムに慣れました。
佐藤先生は結婚して小さなお子さんがいるという話は、いつかの朝の会で聞いており、家族想いと想像できるやわらかい物腰の先生です。
話す言葉も丁寧で、なるべく子どもと同じ目線で話そうとしてくれている。
だれかが理解できていなさそうなときも、全体の流れを止めてしまうことなくその生徒をうまくカバーする先生でした。
杉田先生は、ややドライで言葉もフランクなところがありますが、フレンドリーな感じもしますが適度な距離を保っている気もする。
授業中、だれかを当ててその子の回答が間違っていた時「違うねー」と返しつつ、「なぜそう考えた」と聞く。
その子が答えられそうな状況になると、「他に分かる人、いる?」とすぐに切り返す。
杉田先生からたまに聞く授業とは無関係の内容は面白く、楽しそうに生きている人なんだろうと伊織は考えていました。
ある日、学校が終わって全員が帰宅したころ、伊織は忘れ物に気づき教室に戻ってきたとき、杉田先生が教室にいました。
「どした。」と杉田先生に聞かれ、「忘れ物を取りに来ました。」と返す伊織。
そんな伊織に杉田先生は「複数担任制が今年からはじまったけど、どう。」と聞かれました。
伊織は「自分にとってすごく良いです。」と答えつつ、自分の頭を整理するようにその理由を説明します。
昨年度の先生とそりが合わず相談などは一度もできなかった。
自分のやり方が正しく、それをクラス全員に求める、同じ方向を向かせるような感じで、自分がクラスに対し何かしようと思えなかった。
それが今年度から担任の先生が3人になり、伊集院先生とは話す機会は少ないので良くわからないが、杉田先生も佐藤先生も押し付けるような息苦しさを感じない。
小学校低学年時の担任の先生には、放課後など何度かそうした相談した経験があって、それで学校生活での不安が軽くなっていたが、それが昨年はできなかった。
大人の人たちがどういう理由で複数担任制にしたのか知らないが、僕は相談先がたくさんあるのは良いと思っています。
それを受けて、杉田先生は答えます。
「担任の先生の考え方によるからひとくくりにはできないけど、複数の眼があるのは良いよね。
最終的には人間なので個人対個人になるけど、いまのシステムは1対1の時でも他のだれかに聞かれてもおかしくない行動を意識しそう。
私も初めて複数担任制をやってみたけど、いままで考えてこなくてすんだ情報共有などが多くはっせいしているけど、それを上回る良い点があると思ってる。
こういう君たちの生の意見も本当に大事で、それが聞けてよかった。ありがとう。」
伊織は自分の気持ちを素直に言っただけ、それを新たな取り組みの参考になる大事な意見と言われて何か誇らしい。
昨年度であれば同じ質問をされたなら、「特になにもありません」と答えた自分が想像できました。
また別の日、どうしても解けない算数の問題があり、伊織は勇気を出して職員室の佐藤先生のところに行きました。
それまで伊織にとって職員室は近づきたくない場所、前年度の先生もそこにいるのがその理由の一つでした。
伊織は職員室の前のドアにきて、一呼吸してノックして失礼しますと言って中に入る。
幸い佐藤先生の机は入り口のドアの近くに座っており、すぐに佐藤先生がこちらに気づいて話しかけてきてくれました。
「どうしましたか。」
伊織は佐藤先生の席に近づき、持っていた教科書を見せどうしてもこの問題が分からないと伝えました。
すると佐藤先生は(自分たちの)教室に行こうと伊織を職員室から連れ出しました。
佐藤先生が伊織を連れ出したのは、杉田先生が伊織から昨年度の先生と微妙な関係だった話を聞いていたため。
職員室で話をすると、伊織が前年度の担任の先生を意識して、緊張することを見越しての行動でした。
二人は自分たちの教室について、どこでつまづいているか、佐藤先生に聞かれる伊織。
ある図形の問題で、何度やっても回答は出せるが答えが明らかに違っていそう。
伊織は自分の解き方を、順を追って佐藤先生に説明しました。
それを受け、佐藤先生は黒板に問題の図形を書いて話し始めます。
伊織が出した回答は、たしかに違っています。
そういう時、何かを見落としていたり思い込んでいることが多い。
算数はパズルのようなものだよ。
解けないときは、違う角度から見てみるといいんだ。
最初に手を付ける部分、違う視点で考えてごらん。
そういわれて、伊織は図形とにらめっこする。
自分は最初に置いた線はあっていると思っていたが、とっかかりの部分を違う方法にするのだろう。
頭の中であれこれ位置を変えて図形を描いていると「これだ!」と思えるものをひらめきました。
チョークを手に取り、その線分を図形に足すと、スラスラとゴール(回答)にたどり着けました。
伊織は先生に「できました」と報告する。
佐藤先生はニコニコしながら一連の伊織の様子を見ていました。
「うん、自分の力で解けたね」と返す。
そして少し間をおいてから、佐藤先生は伊織に話しかけます。
間違っているならどこかに固執せず、自分の思い込みを一度手放してみる。
それを視点を上げるとか俯瞰する、という言い方もあります。
そして、自分で考えて答えを出すのは、一生続く大事なことだと先生は思っています。
伊織にとって複数担任制は、これまでと違った学校生活だと実感しています。
朝の登校時間に家から出るとき、心の中に雨雲が垂れ込めるのではなく、今日は何が起こるだろうと考えるようになりました。
さいごに
以前、このブログで書きましたが、近未来には教育にAIが入ってくると僕は考えています。
複数担任制として通常授業はAIが行い、サポートして人間の教師がいる。
オーソドックスな授業内容・説明はAIが全体向けか個別に説明、イレギュラー対応の役割として人間。
試験問題の草案作成はAIで、できたものを人間が精査。
さらに普段の悩みのようなものもAIに相談できるようになり、生徒がだれかに知られることなく相談できる先としてAI活用する。
AI相談してもプライバシーは守られ、本人が他者開示許可しなければ、だれかが知ることはない。
その時、AI解答は一般論が多くそれが解決の糸口になることもあれば、だれかに相談したければ相談窓口はこれとこれがあります、と案内される。
相談先が分からず、とっかかりが掴めない生徒にとっては、助け舟になるかもしれません。