この文章のトピックスは以下です。
・海水浴人口はコロナウィルス過とは無関係に減っている
・海に行きたいと考える人も減っている
・大人に比べ子どもは海に行きたい人が多い
・年収が多い家庭の子どもは海に行く機会が多い
・習い事をしている子どもはしていない子に比べ海に行く機会が多い
海水浴人口2022年は2010年比で-1,120万人
出典:レジャー白書(公益財団法人日本生産性本部)
上記はレジャー白書の情報、海水浴参加人口推移です。
基本は右肩下がり、コロナウィルス蔓延前の2019年まででも減少傾向。
2020年はコロナウィルスの影響で大幅減少、その後も少し回復しましたが低迷を続けています。
出典:レジャー白書(公益財団法人日本生産性本部)
上記は男女別、年代別の海水浴参加率です。
男性の参加率1位は「男性30代」6.5%、2位は「男性10代」6.2%。
男性の参加率1位は「女性30代」7.8%、2位は「女性20代」5.4%。
出典:レジャー白書(公益財団法人日本生産性本部)
上記は男女別、年代別の海水浴参加率です。
男性の参加率1位は「男性30代」6.5%、2位は「男性10代」6.2%。
男性の参加率1位は「女性30代」7.8%、2位は「女性20代」5.4%。
出典:レジャー白書(公益財団法人日本生産性本部)
上記は地域ブロック別、海水浴参加率です。
飛びぬけているのは沖縄で9.7%。
最下位が南東北で、全体的に西高東低とも言えますが、個別にでこぼこしています。
海に行きたい人も、行く人も減っている
出典:「海と日本人」に関する意識調査(日本財団)
上記は日本財団の情報での、海に行きたいかの結果です。
近年に近づくほど「行きたい」と答える人の割合が減っています。
2019年「行きたい」と答えた人と、2024年「行きたい」と答えた人の差分は-9%。
同値で「行きたくない」が2019年と2024年を比べると+9%になっています。
出典:「海と日本人」に関する意識調査(日本財団)
上記は直近1年間に、1日以上海に行ったか。
近年に近づくほど、1日以上行った人が減っています。
「1日以上行った」人は2019年67%、2024年は48%、前後比-19%です。
出典:「海と日本人」に関する意識調査(日本財団)
海に行かない理由の解答が上記です。
1位「家から海まで遠い」28%、2位「海に行くという発想がない」24%でそもそも論の解答です。
時代を感じさせるものとして8位「夏が暑すぎる」10%も回答に入っています。
出典:「海と日本人」に関する意識調査(日本財団)
上記は海へ行く人の海への訪問目的です。
1位「リラックスしたかった」28%、2位「ドライブしたかった」24%あたりは昔からの定番回答です。
6位「家族に誘われた」11%で、この回答は昭和時代、もっと上位だっただろうと予想します。
大人に比べると子どもの海へのモチベーションは高い
出典:「海と日本人」に関する意識調査(日本財団)
上記は、高校生と小学生の海に行きたいかの回答です。
若い年代ほど海に行きたいと答えています。
出典:「海と日本人」に関する意識調査(日本財団)
上記は、実際に海に行ったか、高校生と小学生の回答です。
こちらも1つ上のグラフと同じく、年齢が若いほど海に行った割合が高くなっています。
ただ、小学生だと行きたいと考えている割合は75%、1年以内に海に行った割合は60%と、15%の乖離があります。
出典:「海と日本人」に関する意識調査(日本財団)
上記は小学生が対象の、世帯年収別、海訪問状況です。
世帯年収が高い世帯の子どもほど、海にいく機会が多い。
「400万円未満」53%、「1,000万円以上」68%、その差は15%です。
出典:「海と日本人」に関する意識調査(日本財団)
上記は小学生の子どもで、習い事をしているか・いないか別の海訪問状況です。
習い事をしている子どものうち海に行った割合は64%、習い事していない子どものうち海行った割合は54%。
10%の差で、これを体験格差と読んで良いのか分かりませんが、差がある事は間違いありません。
(物語)海は異世界の入り口
海水はべたべたするし、砂浜の砂は手足にこびりつくので海には入らない。
そう考えるのは、東京に住む小学生5年生の女の子、渚(なぎさ)。
名前からは海と相性は良いですが現実は逆で、日常においてもどちらかというと潔癖に近いと本人も考えています。
学校のプールであればシャワーを浴びればすっきりするので、泳ぐ行為自体、嫌いではありませんが海水浴は別。
最後に海で泳いだのは小学校入学前ですが、それは渚にとって気持ちの悪い記憶として残っており、小学校入学後は海辺に行っても海水浴はしなくなっていました。
海以外、虫も苦手なので山にも食指が動かない、令和時代に増えている自然経験が少ない自然に距離を置く都会の子どもでした。
そんな渚ですが、小さなころ映画で見た「ファインディングニモ」「ファインディングドリー」は気に入っており、熱帯魚には興味がありました。
とは言え、実物の熱帯魚を飼うほどの熱量ではなく、もっぱら映画やYouTUBEなどのデジタルデータでたまにきれいな魚を眺める程度でした。
渚の家は毎年、夏になると姉や両親が海好きなため、家族で海そばのホテルに旅行に行きます。
両親は、渚にもう少し自然に触れ合ってほしいと考えていましたが、無理に海に入ろうとは言いません。
それでも渚は自分一人、家に残されても仕方がないのでついていきますが、海には入りませんでした。
今年の夏、渚の家の両親が選んだ旅行先は沖縄。
熱帯魚に興味を持っている渚が、沖縄の海なら海水浴を楽しめるのではないかと思いつつ選んだ行先です。
家族4人の旅費はそれなりにかかるが、両親二人とも子どもの経験を重視する方針で、多様な経験から自分の道を選んでもらいたいと考えていました。
旅行当日、家族は朝早くに家を出て、羽田発の午前便で那覇に到着。
5つ星高級リゾートホテルとはいかなくとも、ビーチがついた立派なホテルにチェックインしました。
ホテルの眼前に広がるのは、透明度の高い海。
海水浴が好きな姉は一気にテンションがあがりますが、渚はいつも通りフラットです。
姉はすぐに水着に着替え、海に行こうと家族を誘う。
両親も水着に着替えましたが渚は水着には着替えず、着てきた服でビーチサンダルを持ってお供する。
ビーチサンダルを履いて砂浜に出ると、白くサラサラの砂が足の裏とサンダルの間に入ります。
水に入らなければ砂が肌につかないので、ここまでは渚にとって許容範囲。
浜辺に立ってふと目線を上げてみると、視界に広がるきれいな砂浜、海の色が本州とは違い明るい水色でした。
それでも、渚にとって水に入るほどの魅力とはならず、お付き合い程度の時間浜辺に座って家族が海で遊ぶのを見て、ホテルの部屋に戻って、持ってきた本を読んでいました。
ベッドに寝っ転がって本を読み、読み疲れると昼寝して、さらにホテル内を一人で散策して時間をつぶす。
やがて時間が経ち、夕方、家族がホテルの部屋に戻ってきました。
姉は興奮冷めやらぬテンションで渚に話しかけます。
沖縄の海は想像以上に綺麗で、普段学校の水泳の時間に使っている水中眼鏡で浅瀬を泳いでいても、水底が見通せる。
そこには、色とりどりの熱帯魚が泳いでいて、ニモ(クマノミ)もいたよ。
こんな経験、なかなかできないので、明日、渚も海に入ってみない、と誘ってきました。
渚も水着は持参していますが、あくまで非常用で使うつもりはありませんでした。
しかし、ニモと聞いて心がぐらりと揺れる。
ただビーチに出たとき海が苦手な渚も感じた、沖縄ならではの青い空と白い雲、青い海と白い砂浜。
「うーん、ちょっと考えてみる」と渚は姉に返答しました。
翌日も天気は快晴でした。
姉は朝から海に行きたいと思っていましたが、この日は午前中、首里城などを観光する予定でした。
首里城を訪れ、お土産物屋さんなども物色しつつ、ランチを食べてホテルに戻る。
午後の浅い時間から、姉にとっては待望の海に入る時間です。
渚はこの時もまだ、海に入るか迷っていましたが、姉の勢いに押され今日は海に入ることにしました。
渚の両親も、昨日、海に入ってその綺麗さを知っており、また渚が少しでも楽しめるようにと、ホテルのフロントでシュノーケリングセット(シュノーケルとゴーグル)を借りる手配してくれていました。
ビーチに到着し、レンタルしたシュノーケルとゴーグルを持って水辺に近づく。
思い返してみると、渚が海に入るのは小学校に入る前が最後で5年ぶりです。
渚は砂浜を通って水辺に到着し、少しだけ躊躇したのち海水に足を浸してみると、ぬるいお風呂くらいの水温で気持ち良い。
熱い砂浜を歩いてきた足に、心地よい温度でした。
渚は学校のプールでは、25メートル自力で泳げる泳力を持っています。
溺れる恐怖心はなく、ただべたべた気持ち悪いのが嫌で海から遠ざかっていただけです。
久しぶりの海、初めての沖縄の海ですが、水に入ってしまえば気持ち良い。
そろりそろりと姉と一緒に沖に向かって歩いていきました。
水深が胸のあたりまできたところで、まずは姉がレンタルしたゴーグルをつけて、シュノーケルをくわえ立ったまま水中をのぞき込む。
シュノーケルがなければ息継ぎのために顔を水中からあげなくてはいけませんが、海中に顔を入れている姉を見ると、シュノーケルで呼吸している音がする。
1分以上経過したころ、姉は水中から顔を上げて興奮状態で「すごいすごい、めっちゃ魚いる」と言う。
渚もゴーグルをつけて、シュノーケルをくわえ水中をのぞき込みます。
自分の足も見える水の透明度。
もちろんプールやお風呂のようなクリアさはありませんが、海底も白い砂浜でところどころにサンゴがあることもわかる。
そのサンゴの周りには、カラフルな魚が何十匹と泳いでいる。
思わず渚は「うわぁ」と、シュノーケルをくわえながらゴボゴボと声を出していました。
水中、自分の周り180度見渡してみても、大きな岩のようなサンゴがあるところには魚群が見える。
姉が水中でもごもご行っているのでそちらを見てみると、遠くにウミガメが泳いでいます。
そして、海底の少し先にひときわ大きく黒く見える場所があり、そこは魚影が濃そうです。
渚は水中で姉の肩をぽんぽんと叩き、あそこ行こうと水中で指さす。
姉も水中でサムズアップ(親指を立てるOKサイン)で、二人で顔を水につけながらそろそろと歩いていきました。
目的地の大きな黒く見えた部分は、何層にも重なっている大きなサンゴでした。
水中自体は怖くはない渚。
サンゴを踏まないように、水中にもぐりました。
頭を下にしてダイビングするような姿勢で海底に近づき、大きなサンゴを横から見てみる。
サンゴは多層になっており、傘の下には原色系の色とりどりの魚がまるで各階のマンションに住む人間のように隠れていました。
大きな体のチョウチョウウオ、深い青色のアカククリ、いろいろな色のウミウシ。
渚は沖縄の海に行くことが決まってから、ネットで沖縄の魚の写真を見ていたので魚の名前が分かります。
その中にはオレンジ色の小さな魚、ニモもいました。
渚は知りませんでしたが、クマノミは意外に好戦的です。
自分のなわばりに入ってくる物体は、自分より巨大な人間であっても攻撃を仕掛けてくることもある。
渚が頭をサンゴに近づけたとき、ゴーグルにコツコツ体当たりしてくるクマノミ攻撃を受けました。
クマノミを手で払おうとしても、魚側が逃げる速度の方が上で触ることはできない。
水中で人間は不自由、絶対に魚の泳ぐ速度についけません。
ここは人間の世界ではなく、魚の世界に人間がお邪魔させてもらっている。
渚はうまく言葉にできませんが、いま自分はとても大事な経験していると感じていました。
知識として知るではなく、肉体・精神も含め全身で認識するような。
これまで海が嫌いと断っていましたが、トライしてみると興味深いものに出会えます。
海中で人間がままならないことを体感するのを含め、この経験はこの夏一番の想い出になるだろう。
渚にとってそれはこの夏のみではなく、大人になっても記憶に残る経験になりました。
さいごに
予定調和と非日常の冒険。
どちらも状況に応じてうまく対処していくものですが、強い思い出として残るのは後者です。
今回見てきた情報では、日本人は海から離れつつあります。
海は人間の世界ではなく、海水浴は異世界への入り口と考えることもできる。
わざわざ夏の暑い盛り、人混みあふれる海水浴場に行って、何の意味があるかと言われても悩ましい。
しかし、自分の子ども時代の記憶を探してみると、何シーンかは海での楽しい記憶が思い起こせます。