学校図書館にとっての追い風と向かい風

スポンサーリンク
育児・子供観察

小中高での図書館蔵書数は、近年微増を続けています。
それが理由か不明ですが、小中高生の読書冊数も増加している。
学校図書館は、読書や勉強、情報活用能力を高めることが目的です。
とは言え、生徒たちがスマホを持った段階から、膨大な情報に流されてしまう現代、図書館にとっては向かい風です。

スポンサーリンク

学校図書館の蔵書数は増加、予算は減少

ここ10年の学校図書館の情報が、全国学校図書館協議会にあります。

小中高 学校図書館 平均蔵書冊数
出典:「学校図書館調査」の結果(公益社団法人 全国学校図書館協議会)

2012年と2021年を比べると、小中高いずれも増加。
1校当たりの増加冊数は小学校が629冊、中学校が185冊、高校が2,098冊。
増加割合は小学校が106.7%、中学校が101.7%、高校が108.3%。
古い書籍の入れ替えや、無くなってしまった書籍があるなかの増加です。

小中高 学校図書館 図書購入費
出典:「学校図書館調査」の結果(公益社団法人 全国学校図書館協議会)

平均蔵書冊数は増加していましたが、2011年と2021年を比べると、図書購入費は減少しています。
1校当たり図書購入費は小学校が-10万円、-18万円、高校が-8万円。
増減率は小学校が82.2%、中学校が76.9%、高校が90.8%。

図書購入費が下がっている要因は不明です。
思いつくのはIT関連に予算を割り当てたり、司書の人件費が想像できます。

図書標準達成校割合は増加、司書数も増加

学校図書には、図書の整備を目標値として、1993年に「標準達成」という数値目標が定められました。
学級数に応じて保有する本の数を決めた目安で、一例としては小学生では以下です。

学級数 蔵書冊数
 1  2,400
 2  3,000
 3~ 6  3,000+520×(学級数- 2)
 7~12  5,080+480×(学級数- 6)
13~18  7,960+400×(学級数-12)
19~30  10,360+200×(学級数-18)
31~  12,760+120×(学級数-30

出典:学校図書館図書標準(文部科学省)

 

学校図書館図書標準達成校割合の推移出典:文部科学省「学校図書館の現状に関する調査」結果の経年変化と課題(国立国会図書館)

上記が、小中学校と特別支援小中の標準達成校割合の推移です。
特別支援校は横ばい、通常小中学校は右肩上がりです。
2020年度の達成割合は、小学校=71.2%、中学校=61.1%、特別支援小=15.5%、特別支援中= 3.6%。
通常小中学校は増加していますがが、厳しい方をすると約30年前に立てた目標100%がいまだ未達です。

学校司書配置校割合(校種別)の推移
出典:文部科学省「学校図書館の現状に関する調査」結果の経年変化と課題(国立国会図書館)

1997年の「学校図書館法」が改正で、学校に司書教諭の配置が決まりました。
12学級以上の学校には司書教諭を必ず置くルールで、2016年段階で12学級以上の学校はほぼ100%配置されたとのこと。
その上で、何学級あるかの学校規模を考えず、小中学校の分類での学校司書配置校割合が上記です。
小中学校は伸びていて、高校が下がっています。

平均読書冊数は増加、本を読まない生徒は減少

ここまで、学校の図書館側の情報でしたが、この段落は読書する側の情報です。

5月1か月間の平均読書冊数
出典:「学校読書調査」の結果(公益社団法人 全国学校図書館協議会)

小中校の生徒が各年5月1か月に読んだ本や雑誌数が上記です。
2000年と2022年を比べると小学校は216.4%、中学校は223.8%、高校は123.1%。
小中校いずれも増加していますが、小学校の増加実数が高く、2000年6.1冊から2022年は13.2冊。
2022年の小学生は、約2日に1冊、本を読んでいます。

5月1か月間の読書0冊の割合
出典:「学校読書調査」の結果(公益社団法人 全国学校図書館協議会)

5月の1か月間で1冊も本を読まなかった生徒の割合推移が上記です。
2000年と2022年を比べると小学校は-7.7%、中学校は-24.4%、高校は-10.0%。

これら2つのデータでは、本を読む平均冊数は増え、本を1冊も読まない生徒は減っている。
子どもの活字離れのニュースが独り歩きしている感が否めません。

直近の図書館計画では増額

ここからは図書館に関して2022年度からの5か年計画、未来形の情報です。

・単年度総額480億円、5か年総額2,400億円
・学校図書館図書の整備
単年度199億円、5か年総額995億円
不足冊数分=単年度39億円、5か年総額195億円
更新冊数分=単年度160億円、5か年総額800億円
学校図書館図書標準100%達成を目標とする
・学校司書の配置
単年度243億円、5か年総額1,215億円
小・中学校等のおおむね1.3校に1名配置を目標とする

出典:第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」(文部科学省)

2022年度の学校基本調査で、小中高を足した学校数が33,997校。

学校図書整備費用・単年度199億円をこの学校数で割ると、1校1年当たり58.5万円。
2021年度の図書購入比でみると、小学校で約2.24倍、中学校で約2倍、高校で1.71倍となります。
2022年度から5年間、これまで以上に蔵書が拡充される、図書館にとって追い風です。

ここまでをまとめますと、以下です。
・学校図書館の蔵書数は増加
・予算は減少
・司書数は増加
・本を読む生徒は増加、1冊も本を読まない生徒は減少
・直近は予算が倍増しており学校蔵書が増加する可能性がある

タイパ時代は図書館にとって向かい風

日本の学校では、図書館を設置しなければならない法律があります。

第一条 この法律は、学校図書館が、学校教育において欠くことのできない基礎的な設備であることにかんがみ、その健全な発達を図り、もつて学校教育を充実することを目的とする。
第三条 学校には、学校図書館を設けなければならない。

出典:学校図書館法(e-GOV)

その学校図書館の求められる役割が以下です。

① 読書センター 読書活動の拠点となること。
② 学習センター 授業に役立つ資料を備え学習支援を行うこと。
③ 情報センター 情報活用能力を育むこと。

出典:「みんなで使おう!学校図書館」リーフレット(文部科学省)

図書館は読書や学習、情報活用能力のハブ役を目指している。
この中で、読書や学習は短時間ではなく相応の時間を要します。

文庫本であっても、普通に読むなら1冊数時間。
勉強のために複数文献に当たるなら、1テーマで数時間からそれ以上。
研究論文に至っては、100時間を超えてあれこれ考える。
そういう時に、情報活用能力は真価を発揮します。

図書館で本を読んだり勉強したりするのが、長時間タスクだとします。
逆のイメージになるのが、短時間や短縮。
タイパ(タイムパフォーマンス)重視という、2023年に開催されたZ世代に関するGoogleセミナーの中に以下情報があります。

合理主義・タイパ
自分の好きなこと・価値を感じていることに自分のリソース(時間・お金)を効率的に使いたいので、必要のないことには時間をかけないよう、メリハリをつける。
タイムパフォーマンスを重視する理由の1位が「自分が価値を感じていることに時間を割きたい 49%」

YouTUBEショートを見る理由
短いながらも手早く趣味、仕事関連情報や最新トレンドについて情報収集
タイパを重視するZ世代との相性が特によい
YouTUBEショートを見る理由の1位が「手軽に隙間時間などで短い動画を楽しみたい 65.4%」

Z世代は1995年~2010年生まれ(13~28歳)、彼らはリターンを意識して行動します。
スマホを保有した段階からたくさんの情報に埋もれることになり、タイパを意識せざるを得ない環境ではあります。
ネットを駆使し最新情報をカバーしつつ、できるだけ自分のために時間を使いたいと考えている。

しかし、ネット社会は誘惑が多く、本を読む時間を紡ぎ出すのは難しい。。
大量の情報を短時間で処理、消費し続ける若者が増えているなら、図書館にとっては向かい風です。

それでも今回、小中高生の読書数は増加、1か月に1冊も本を読まない生徒は減っているので、見てきた情報では、活字離れのワードは間違いとなります。。
一部の読書家生徒が全体の読書数を底上げしているのでもなく。
やはりというか思いつくのは、スマホを持つ前と後で、読書が一気に減る。

世間一般の書籍販売額をみると、物理的な本ではなく電子書籍割合が年々増加しています。
スマホでSNSや動画視聴時間が増加するなら活字離れのとなりますが、そのスマホで本が読める時代です。

さいごに

僕は10代の頃、漫画ばかりで活字本はほとんど読まず、20歳以降に本が好きになりました。
よって本を読まない若者に対し、何か言える立場ではありません。
一応ですが、本を読むことが正しいわけではありませんし、強制するほどのモノではなく。

ただ、本好きになって思うのは、自分と対話するのに本は最適なツールということ。
若いころの自分に問いかけるなら「目いっぱい遊びつつ、たまに本も深いですよ」。

自分と対話しなくては、その人の言葉は生まれず、本はそのきっかけになり得ます。
もちろん本が万能ではなく、あくまでその可能性が高いもののうちの1つというお話です。