人の役に立つと嬉しいと感じる自己有用感。
日本人らしいと言って良いのか、年齢が上がるとともに減少します。
自己有用感の世界比較を見ると、意外と言って良いのか平均値周辺。
人の役に立つ良い理由はさておき、だれかに謝意を受けると嬉しい気分になります。
自己有用感とは
「自己有用感」と「自尊感情(自己肯定感、自己効力感)」について、文部科学省の説明では以下です。
▼「自己有用感」とは
「自己有用感」は、他人の役に立った、他人に喜んでもらえた、…等、相手の存在なしには生まれてこない点で、「自尊感情」や「自己肯定感」等の語とは異なります。▼「自尊感情」とは
心理学用語Self Esteemの訳語として定着した概念です。一般的には、「自己肯定感」「自己存在感」「自己効力感」等の語などと、ほぼ同じ意味合いで用いられているようです。出典:「自尊感情」?それとも、「自己有用感」 ?(文部科学省)
自尊感情は、他者からの評価や感謝で満たされることもありますが、基本的には自分の中で完結するもの。
対し、自己有用感は他者の存在があって成立します。
他者が自分を有用と認めてくれるメリットを上げてみます。
・友達や組織に貢献、そこにいても良い(価値のある存在)
・どうやったら人が喜ぶかの距離感獲得、やりすぎた場合の失敗経験(対人経験)
・他者をサポートできる自分の能力への満足感、成就感、承認欲求が満たされる
・他者視点で考えられる視野拡張(世界が広がる)
・リーダーシップ、リーディング経験
自己有用感が高いという事は、だれかに感謝されており、まずはそれだけで社会的に有用です。
さらに、上記メリットに挙げた通り、自分にとってもプラスにもなります。
子どもの年齢が上がると自己有用感は下がる
以下、自己有用感と子どもの年齢のアンケート結果です。
出典:高めよう!自己有用感(栃木県総合教育センター)
数値が高いほど、自分が人の役に立てている、というグラフです。
グラフはわずかながら右肩下がり、年をとる毎に自分が人の役に立てていると思う人が減っています。
あおり記事なら、グラフの見せ方を変えてグッと数値が下がっている風に見せそうですが、小学4年と高校3年の差は-14.7%。
9年の間に世界が広がり、自分の万能感が減る現実と向き合う。
その結果、年齢に見合った謙虚度合いの増加を加味すると、この程度の数値減少は妥当な範囲と言えます。
人の多様性として、人に役に立ちたいと思う人がマジョリティであったとして、そこにアンテナが立たない人もいる。
言うまでもなく、人の役に立たない人はダメというのは暴論です。
仮に大半の人が人に役立ちたいと思ったとして、その人が子どもを得た時、子どもがだれかの役に立ってほしいと思うのは必然です。
そう思った親側が、現実に自分が他人の役に立てているかと聞かれて、口ごもったとしてもです。
上記の学年別の自己有用感グラフと同じ情報元に、自己有用感を高めるポイントがありました。
子どもの自己有用感を高める四つのポイント
1. 子どもをよく見て、その子に応じて褒めましょう。
2. 子どもの話をじっくり聴いたり、子どもに話し掛けたりしましょう。
3. 一人一人に活躍の場を与えて、見守り、やり遂げさせ、達成感を味わわせましょう。
4. 子ども同士が認め合う場を設定するなど、人間関係づくりを支援しましょう。出典:高めよう!自己有用感(栃木県総合教育センター)
1つ目と2つ目は、近代子育ての基本に通ずるものです。
3つ目は、過干渉・過保護のアンチテーゼ、4つ目は他人との距離感が難しい時代ですが、やはり1つ目2つ目と同じく、子育ての基本姿勢と感じます。
一応ですが、上記4つが悪いのではなく、最近の子育ての基本をやればよい、くらいになります。
小学5・6年生を対象に自己有用感に関連があると予想された児童の非認知スキル、gritの程度を加味した上で、自己有用感に最も関連する教育方法が何であるかを検討し、やりがいのある学校行事や委員会・係活動の設定やgritの一側面である根気との関連が大きいことを示した。今回、自己有用感を構成する要素として存在感、承認、貢献、関係性の4つの側面に分けて検討したが、これら4つの相関をみてみると、中程度に大きいことが分かった。この結果から、自己有用感を構成する要素として挙げた4つの要素は妥当であったといえる。
出典:小学生の自己有用感に関連する教育方法の検討(国立教育政策研究所)
上記は、上のグラフの栃木県データを分析したもので、最後の考察部分の抜粋です。
いつも通り、因果関係ではなく相関関係の結論として、自己有用感とGRITに関連が大きいという内容です。
GRIT(やり抜く力)がある子どもが、あきらめずにアクションし続け、だれかに感謝され自己有用感が高くなる。
話の筋は通っています。
国際比較では真ん中くらい
諸外国と比べて日本の少年期~青年期の人たちが役に立っているかの情報が、内閣府にありました。
対象は13歳~29歳で、2018年の情報です。
出典:日本の若者意識の現状(内閣府)
自分が役に立たないと強く思う日本人は17.7%で、この情報全体平均18.2%よりはわずかに低い。
役に立たないと強く思う+どちらかというとそう思うの日本人合計値が51.7%、全体平均46%より高い。
一般論では、日本人は自分に自信がない論調からすると、健闘しています。
自分は役に立たないと強く思うと答えた1位がアメリカ、2位がイギリスなのは、社会の闇を感じます。
自信にあふれ生き延びるために、仮面であっても強面で主張する社会で、そこに入れなかった人々なのか。
逆に、ドイツ、フランス、スウェーデンの西ヨーロッパ諸侯は、役に立たないと思う人は少ない。
この辺りは、たいていの人の体感値に近い気もします。
上記、各国比較データ元に、自分自身に満足している、自分には長所がある、というデータもありました。
こちらは日本が最下位で、自尊感情が低い結果です。
出典:日本の若者意識の現状(内閣府)
自己有用感は生来のもの
先生を含む子どもの集団、子どもの胸にシールの名前をつけている状況があったとします。
ある子どもが、自分だけ後片付けが先に終わったとき、先生から「〇〇君、みんなの胸のシールを集めてきてね」と言われる。
子どもは「まかせて!」とみんなのシールを集めて、先生の所に持っていき「ありがとう」と言われる。
次回も、後片付けのタイミングになると、その子は自分の片付けを集中して最速で終わらせ、自発的にネームシールを集めて、先生のところに持っていく。
大人であれば、その場の空気を読んだり、駆け引きを考えるので、想いと行動が一致しない時もあります。
対し子どもは、最初は判断軸がなかったとしても、行動の結果、先生に褒められるのは、自分はだれかの役に立ていると認識、それを誇らしく感じている模様。
それを親が見て、帰宅後「よく気が付いて、さすがだね」のような声掛けすると、照れてもごもごとするのも子どもらしい。
そのはにかみの中に、誇らしさもわずかに見て取れるのは、親バカだったとしても良い環境です。
生来(せいらい)の言葉は、生まれた時からの性質を指しますが、生まれ持ったものかどうかを無視しても、人の役に立つとシンプルに嬉しい。
昔話でも、親が子に向かって「役に立つ人になってほしい」と願うシーンが良く出てきます。
そしてそこには、なぜ役に立つ必要があるのかは描かれません。
言い換えると、そんなことは当たり前とも取れる演出です。
人の役に立つ理由が、本の中に書かれていなかったとして。
子どもが人に感謝されることを望む姿を見ると、生来とかアプリオリと感じます。
大人になっても、電車に乗っていて目の前に妊婦さんが立った時、席を譲る。
少しの勇気と気恥ずかしさがあっても、どうぞと言って席を譲った後の何とも言えない気持ちが沸き上がります。
それは明確な説明ができなくとも、人に備わった機能の1つだと感じます。
さいごに
他人に認めてもらうことで自分の存在価値を確認するのは、他者視点です。
その結果、自分の中の自信が育ち、一人の人間として確立していくのは、シナリオとして思い描きやすい。
では、その先はどうなるのか。
役に立つ自分がどんどん好きになり、他者受容度も上がって他人も好きになる。
自己犠牲は極端ですが、だれかの役に立つことを目的化していく。
究極状態ですが、自分(自我、自己欲求)がほぼなくなり、利他のみで動くようになる。
何であっても、その人の葬式には多くの喪失感情が集まりそうです。