やらない選択

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育児・子供観察

引継ぎ時に、どの程度のマニュアルを用意するか。
日本の会社は、比較的しっかりとした引継ぎ文化がありますが、欧米はそうでもなく。
ただ、マニュアルがあれば良いというものでもなく、引継ぎ時には変化を起こす良いタイミングです。
明文化できない事項も含め、相手の立場に立つ姿勢は、引継ぎ時も子育て時も変わらず重要です

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変わらないための引継ぎ

一般的に言われる良い引継ぎは、手厚いマニュアルだったり引継ぎ期間がしっかり確保されているなどありますが、職種やポジションによっても違いますし、個人の思想も影響します。
引き継ぐ側が心配性なら、一言一句、マニュアル化されているものを良いかもしれないし、引継ぎに時間をかけてほしくない上司なら「だいたいで良い。どうせ変化するものなので、大枠が分かればあとは本人が埋めていく」という発想もあります。

総じて日本企業は、比較的しっかりした引継ぎをします。
前任者と後任者が、一緒にマニュアルを読みながら、手を動かしてレクチャーする。
日本人の国民性の生真面目さゆえなのか、あるいは失敗したくない気持ちなのか。
自分がいなくなった後、現場が混乱しないように、できる限りのことをしたいというのも、よくあります。

この辺りは個人の仕事に対する姿勢や人柄が出ますが、組織風土も影響します。
ある組織で、ある人がしっかりした引継ぎ資料を作る。
それを引き継いだ人や、その資料を見た人が、同レベルの引継ぎをしていく。
ブラッシュアップされたものが、組織全体に広がり、しっかりとした引継ぎが当たり前になる。
「KAIZEN(改善)」を世界に広めた日本ならではの光景です。

欧米では、引継ぎは意図的に行わないケースもあり、求められるミッションのみ入社時に上司と握って、あとは自分の采配で結果を出す。
細かなマニュアル的なものがなかったり、あっても少ないのが普通と考える。

良し悪しの問題ではなく、どちらにもメリットデメリットがあります。

推理力が求められる場面

前任者が突然、失踪して離職する。
僕はIT業界が長いので、実際に失踪した人を何人か知っています。
IT業界以外をあまり知らないのですが、多分、IT業界はそうした人が多い業界だと思っています。

突然人が出社しなくなり、引継ぎゼロで後任が作業に当たる。
失踪する人は、精神的な余裕があるはずもなく、きれいな引継ぎ資料を残してくれません。
後任者は共有サーバー内の資料を発掘して、何とか業務継続させる。

この時、求められるのは推理力です。
その人の性格や仕事ぶりから、多分、この辺りに大事な情報があるだろうと予測する。
いきなり答えを発掘できることは少なく、かと言って総当たりするほどの時間的余裕もない。
五里霧中で、クライアントやユーザーに文句を言われつつ、少しずつ霧を晴らしていく作業はヒリヒリする体験です。

ただ、こうした状況は全体から見れば少数。
大半は、一定期間の猶予期間を持って、業務引継ぎが行われます。
マニュアルやナレッジも、それなりにあります。

どういうマニュアルが理想かは、引継ぎ側の求めるもので評価が変わりますが、悪例の1つに、ボリュームは多いがまとまりが悪いもの、忍耐力が強いられるケースがあります。
全体像が分かれば、細かな部分はどうにかなるのですが、枝葉が多すぎてどこが幹なのか分からない。

情報選別の意味でも、引継ぎの時は「そもそもそのタスクが必要だったか」見直す良いタイミングです。

やらない選択

引継ぎを受ける側の立場で、不満点で最有力なのが「(マニュアルが)良く分からない」。

一見、妥当な意見のような気もしますが、僕はそれが普通と考えています。
仮にすべての業務がドキュメントと手順映像で残っていても、100%の引継ぎになることはありません。
引継ぎで100点を目指す姿勢は、完璧主義的でもあり、画餅です。

業務整理能力があると引継ぎが上手いというのも良く言われますが、それが大事かというとそうでもなく。
ポテンシャルが高い人は、ポイントを押さえることを重要視するので、枝葉は余力があればと割愛します。
仕事はできる人のところに集まり、離脱までの時間は限られているので、最初から60点や70点を目指します。

引継ぎ作業に着手する時、時間節約のために、コツのような点をGoogleで検索するのは有用です。
しかし、書かれている内容の多くは表面的なノウハウなので、限られた時間内で、最短距離を走るための抜け漏れ確認用。

また、引き継ぐ側のポイントは「何のためのタスクなのか、その業務が本当に必要か」の判断。
HowではなくWhat。

「断捨離」は万能ではありませんが、仕事では再重要項目です。
既存メンバーはすでにそれが当たり前になっているので、フレッシュメンバーこそ捨てる判断の適任者。

少なくとも「これまでやっていたから」「何に使われるかは分からないが」などで、捨てるのが怖いので継続するのは悪手。
「それ、ほんとにやるだけの価値、ありますか」と問われて、定量的な回答ができなければ、思い切ってやめる決断をする。
継続するなら、効率化などの改善は基本です。

また、業務継承時に、ノウハウを教えてもらうとともに、重要なのが「前任者がやりたくでできなかったこと」の確認。
できなかった理由はいろいろあっても、それをクリアすればより良い状況になる可能性が高いものです。
継承サービスをより良いものにするため、土台としてとても価値ある情報です。

ちなみに、最近のIT業界周りでは、マニュアルはWebアプリ上での管理がメジャーになってきています。
紙はすでに存在しませんが、電子データのexcelやwordでのファイルを、共有サーバーで管理するのも古い。
アクセス管理や、履歴管理をしやすい、クラウドで運用するようになってきています。

すでにIT業界では一般的になった業務効率化ツールと同じく、情報共有の場はいまはネットが主流。
導入時に慣れが必要ですが、慣れてくると便利で手放せなくなります。

この点をとっても、変化は日常です。

どこまでやるか

子育てを経験して、仕事の引継ぎに近い点として「どこまで手をかけるか」「どこを自分で考えさせるか」があります。

「なるべく自分で考えさせる」が良さそうに思えますが、それは遠回り。
何事にも骨子は必要で、自分で好きにやりなさいは、闇雲に時間がかかるだけです。

「何でも良いので美しい美術品を作ってください」と言って、スムーズに手を動かせる子どもはわずか。
絵具の使い方や、絵を描くときに気を付ける点を学んで「この公園内で美しいと思う風景を絵を描いてください」なら、動き出せる。
立ち止まっていては、いつまでも何もできません。

松下幸之助さんの「やってみせて 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」は、たいていの人にあてはまります。
そのうえで、いまの時代は自分で考え、判断し、新たな何かを作っていくことを求められます。
初動時に受け手の背中を押して、加速させるような。

教える側が、相手の立場で考えているかが重要なのは、子育ても引継ぎも同じ。
自分本位のものは、受け手が苦しみます。

仕事では前任者が子育てでは親が良いパスを出して、引き継ぐ人や子どもがゴールを決めやすい状況を作る。
サッカーではゴールを決める人は花形ですが、美しいラストパスを出す人も賞賛されます。

さいごに

能力があるのだが、決断力がイマイチな人は、どこの組織にもたいてい存在します。
このタイプは、捨てるのが苦手なので、必然、引継ぎは「変わらない引継ぎ」となる。

こういう人の場合は、上長が介入するのが、本人のためにもなります。
引継ぎ業務に入る前に「いらない業務がないかの視点で、引継ぎ業務を棚卸してください」と伝えておく。
恒常性が当たり前としてこれまで生きてきたとか、不安定な状況が苦手だったとしたなら、なおさらそういう環境を作ってみる。
それで壊れてしまうようなら、厳しいようですがバックオフィスへの異動も、本人のためにも組織のためにもなる。

自分の子どもが、メンタルを壊すような状況を親が作るのは論外ですが、子ども時分から「変化」前提で「選択と捨象」を意識づけできれば、どこででも戦力になります。