読解力の低下がもたらす2030年問題

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統計データ

2017年に「中学生6割が教科書を正確に読めない」という話題がありました。
日本の識字率は99%ですが、その識字率も最近は下がっているのではないかという懸念を聞きます。
文字は読めても意味が理解できない人が増加ということ。
読解力の飛躍的向上のタイムリミットが中学校卒業だとすると、早めが肝心です。

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「読む力」を測るリーディングテスト

「基礎的読解力を測るテスト(リーディングスキルテスト、RST)」とは、教科書や新聞に書かれている意味を迅速かつ正確に読み取る能力を測定するためのもの。
国立情報学研究所・新井紀子教授や名古屋大学などの研究グループが開発されました。
2018年初頭で、受験者は全国4万人以上。

テスト問題は中学や高校の教科書や、東京記事などから、ランダム出題。
制限時間30分で、どれだけ多く、正しく把握できるかを測定。
問題はすべて選択式で、文章の意味が分かれば、知識がなくても解ける問題。

このRSTで分かるのは以下の6つの読解力です。
①係り受け解析・・・語句の間にある「修飾する」「修飾される」関係の理解
②照応解決・・・指示語や省略された主語が何を指しているか
③同義文判定・・・2つの文が同じ意味かどうかの判断
④推論・・・論理や常識を使って文章を読み解けるか、文章で書かれていない部分を理解できるか
⑤イメージ同定・・・文章と図表が対応しているか
⑥具体例同定・・・定義と具体例が対応しているか

その結果「問題文を読めていない生徒が半数以上」となったそうです。

中1 中2 中3 高1 高2
係り受け解析 29.7% 24.3% 16.8% 10.2% 10.2%
照応解決 37.4% 27.7% 17.7% 70.0% 6.4%
同義文判定 62.8% 55.5% 42.8% 27.5% 31.1%
推論 71.6% 63.1% 54.4% 41.4% 37.2%
イメージ同定 45.0% 40.3% 30.6% 18.4% 16.7%
具体例同定(辞書) 61.2% 55.1% 42.8% 42.4% 46.8%
具体例同定(理数) 90.0% 82.0% 74.0% 52.4% 56.3%

出典:こちら – リーディングスキルテスト (国立情報学研究所)

読解力の上昇年齢や、読解力がない問題について新井教授は以下のコメントしています。
基礎的読解力は中学では学年が上がるにつれて緩やかに上昇するが、高校では上昇しない
・高校の教科書が理解できず、力が伸びていない可能性がある
・基礎的読解力と進学できる高校の偏差値との間には、強い相関がある
・基礎的な読みができないと運転免許など資格の筆記試験にも困難を伴うと予想される
中学卒業までに中学の教科書を読めるようにしなくてはならない

また、別の資料ですが、以下の内容もあります。

「読書が好きかどうか」「教科書を理解できていると感じるか」「塾に通っているか」とは統計的に有意ではない
少数のサンプリング調査ながら、大人でもかなり間違えることから年代による差もないかもしれない
・中高一貫校の生徒の方が、公立校生徒に比べ「照応解析」「論理的推論」について明らかに良かった

出典:リーディングスキルテストで測る読解力とは(国立情報学研究所)

重要点を一言で表すと「中学在学中までに読解力を身に付けないと、将来まで影響する」ということ。

RSTの問題例

▼問題
オーストリア、次いでチェコスロバキア西部を併合したドイツは、それまで対立していたソ連と独ソ不可侵条約を結んだうえで、1939年9月、ポーランドに侵攻した。ポーランドに侵攻したのは、( )である。
A=オーストリア
B=チェコスロバキア
C=ドイツ
D=ソ連

▼正解
C

▼正答率
公立中学校=75%
中高一貫学校(中学)=100%
公立高校=98%

読解力を向上させる方法

新井教授は結論として「まだ見つかっていない」とお話されています。
しかしRSTによって、子どものレベルが把握することは、教育には有用とも述べられています。
レベルによって教え方を替える、それにより理解が深まるという理屈です。

個人的には「読書」と思ったのですが、上述の通りすでにコレは有意ではないという結論。
インターネット上には、処方箋っぽいことを書いているサイトはありますが、あくまで新井教授は見つかっていないというお立場です。

ただ、読解力向上を分解して考えてみると、違う可能性がありかもしれないと思いました。
理解できないのではなく、日本語として読んでいるが、頭に入っていない可能性。
体や心がとてつもなく疲れているときに本を読んでも、文字面をおっているだけで、まったく頭に入ってこないあの状況。

問題点がそこであるなら、対策は集中力強化や、環境を整えることになるのでしょう。

 

AI時代[ロボットは東大に入れるかプロジェクト]

新井教授は読解力に関わるおもしろいプロジェクトを行っています。
それが「2021年にAIで東大入試突破を目指す」というもの。
通称「東ロボ」君の挑戦。

出典:AIが大学入試を突破する時代に求められる人材育成(国立情報学研究所)

2015年進研マーク模試では、東ロボ君の偏差値は57.8。
おもしろいのは東ロボ君は、まだ文章の意味が分かっていないそうです。
それでも高校生の8割が、すでに東ロボに負けているという現実。

この資料の最後に「今後のある教育改革への期待」という項があります。

・科学的なアプローチに必要性(エビデンスベース)
・仮説を検証できる問題の設定
・テストワイズネスを排除できるテストの導入

そして最終文に「2030年には、労働力不足と失業の問題が同時に起こる」との警鐘があります。

 

さいごに

ある電気屋さんのネット書き込みが、局所的にですが最近、話題になりました。
購入時によくお客さんが間違える商品なので、先に何度も確認しているにも関わらず、購入してクレーム。
他にも説明書を読まないとか、箱の製品名すら読まずに購入して文句。

個人的には、常に新製品を買ったら、説明書を最後まで読む必要はないと思っています。
というか、最近の家電製品などの説明書はその厚さから、読む気が起きません。
そのためか、最近は正式説明書以外、1ページものの「コレだけ読めばひとまず使えます」資料をよく見かけます。
実際、付属品があるか説明書で確認した後、この1ページ資料でだいたい事足ります。

それでも使う前に危険度の高い製品や、組み立て系はザックリ説明書を読んだほうが良いでしょう。
もちろん中には説明書を読まずに、いきなり使うモノもあります。
ドライヤーなどのボタンが少ない製品の場合、僕は説明書を開きません。

少し複雑系の製品だった場合でも、実物を見て多分こういう動きになる、という予想して動かしてみる。
「あれ、なんか違う?」と思った段階で、説明書を読む。
つまづいた時に説明書を読まずにクレームというのは脳が退化しないか、と大きなお世話として抱いた感想です。

不明箇所で試行錯誤して、動かない理由(仮説)を考え、それを説明書で答え合わせ。
説明書を読む時点で正解にたどりつけていないので、間違い点がクリアになって納得、構造などの理解が深まる。
その経験は、未来のどこかでつまづいたときに、あのときの方法が通用するかも、という引き出しにもなる。

脳は使っていないと、しっかり退化します。
運動会の組み立て体操で手を骨折して、ギプスを取ったらその部分が逆の手より細くなっているように。

適度な運動が脳を活性化させる、というのも今の科学では常識です。

ではでは。

◆今回のまとめ◆中学生6割が教科書を正確に読めない
AI時代に人間はどのように共存・共生するのか
人間は考える葦である